観覧車
朝食を食べていると呼び鈴がなった。出てみると知らない女性が立っていた。「随分と大きくなったわね」といいながら家の中に入ろうとしてきたので「どなたですか」と訪ねてみた。女性は「悲しいわ」といいながら鞄の中から封書を取り出し、またねと出ていった。キッ...
帽子
アイスクリームを食べながら散歩していると、交差点から飛び出してきたダンプカーに跳ね飛ばされ、大切な帽子が飛んでいった。悲しくなって家に帰ると魔女が大きな鍋でなにかをぐつぐつと煮込んでいた。怖くなったので帽子のことは内緒にした。次の日に近くの海で貝...
自動車
修理工場から一台の自動車が出てきた。長きにわたり崩れていた調子が戻った様子でぐんぐんとスピードを上げて走った。久しぶりに走ったせいで気持ちが高ぶったのか停まることを忘れてしまい、気がつくと見知らぬ土地で燃料が切れてしまった。辺りは真っ暗で寂しくな...
チョコレート工場までの道のりを確認すると誰も知らなかった
チョコレート工場までの道のりを確認すると誰も知らなかった 気がつくと同じ交差点を幾度もわたり 左側で進路をゆずろうとしている彼が20分前の僕であることにも気が付けず 横断歩道の上から見下ろしてくる信号機は 目を合わすことなく赤へと変わる チョコレート工場...
お昼寝
大きな栗の木の下であなたとわたしが遊ぶのはちょっと危険だけど人を守ると言われている樟だと思われる大きな木の下だと安心してお昼寝ができそうなんて考えながらうとうとしていたそんなわたしはいつの間にかその大きな木陰で一生覚めないでほしい夢を見た わたしは...
14グラムの後悔
対岸に見える小さな灯りがわたしのものであると思えたとき 水面に揺れ映るその光の橋はわたしを渡らせまいと途中途切れ 等間隔で整列するいつかの滲みを備えた橋脚の間隔が 取るべき人との距離感ではないことを知らしめようとする 項垂れた街灯の頭がつくるその影は...
降り立った日
群青色の大きな影の背がすこしずつ低くなり 蜜柑色の涙は遠く離れる 憶えていますか 1277話目の物語は白い屋根の下から始まり 向こうに見える街灯の下までたどり着く前に終わる 変わらず水のない海を泳ごうとしています 見上げると透き通った悲しい顔がこちらを見な...